歯のコラム
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セラミック治療を選ぶ人
2025.06.26
歯科治療の選択肢は、近年ますます多様化してきました。むし歯ができたり歯が欠けたりして補綴(ほてつ)治療が必要になった際には、従来から使われてきた金属やレジン(プラスチック)、あるいはセラミックなど、さまざまな材料があります。そのなかでも見た目や機能性そして近年の素材改良による耐久性の向上などを理由にセラミックを選ぶ人が増えていることは多くの歯科医師が実感している事実です。一方で依然として保険診療に対応する銀歯(メタル)や、コスト面で優位な樹脂素材を選ぶ人も少なくありません。ではセラミック治療を選ぶ人が重視しているのはどのような理由があるのでしょうか。
見た目を大切にしたい人
セラミック治療の大きな特徴として挙げられるのが、やはり「審美性」です。とくに前歯の治療では、銀歯や金属が目立つと気になってしまう人が多いでしょう。セラミックは歯の色味や光の透過性などが天然の歯に近く、治療後の歯でも他人が気づきにくいというメリットがあります。最近では素材のバリエーションが増え、ジルコニアやE-max(リチウムディシリケートガラスセラミックス)など、より見た目と強度のバランスに優れたものが普及しています。こうした素材は調整や加工が難しい一方で、仕上がりが自然な白さとなり従来のセラミックよりも割れにくい性質をもつことから高い評価を得ています。
見た目を重視する背景には現代における「歯の美意識」の高まりも大きく影響しています。日本人は歯並びや歯の色をあまり気にしない傾向がありました。保険診療では審美性よりも機能性が求められていたためです。事実審美治療は保険適用外です。昨今SNSの普及や海外の文化的影響により、歯の印象が第一印象を左右するという認識が広がってきたように思います。さらにマスク生活が続いた昨今の社会状況のなかでも、オンライン会議やビデオ通話の際に口元が意外に注目される機会が多いことから「やはり見た目を整えたい」というニーズが増えたように思います。セラミックを選ぶ人の多くはこうした時代背景のなかで、歯の見た目を「自分の魅力を保つための投資」と考えるようになっているのではないでしょうか。
金属アレルギーに配慮する人
次に考えられる要因として、金属アレルギーやそのリスクに配慮する人が増えている点が挙げられます。銀歯など保険診療で使われる金属材料は、歯科用金銀パラジウム合金が代表的ですが、金属アレルギーの人にとっては問題が生じる場合があります。金属は唾液や食品に含まれる成分と反応してイオン化し、口腔内だけでなく体全体にアレルギー反応をもたらすリスクがあります。もちろん、金属アレルギーの程度は人によって大きく異なりますが、アレルギー体質や金属製のアクセサリーでかぶれが起きやすい人などは、金属が口の中にあることに大きな不安を感じることもあります。
こうしたアレルギー面での不安を取り除いてくれるのが、基本的に金属フリー素材であるセラミックの長所です。オールセラミックなどは体に優しい素材として評価されやすく、金属アレルギーを避けたい人にとっては非常に大きな魅力となっています。さらに歯肉との相性も良く、長期的にみても歯周病や歯肉の変色が起きにくい傾向があります。そのため、“銀歯の周りの歯ぐきが黒ずんでしまった経験がある” (メタルタトゥー)といった人や、口腔環境をできるだけ清潔に保ちたいと考える人も、セラミックを選ぶ傾向が高いです。
耐久性や機能面を考える人
セラミック治療を選ぶ際、見た目だけでなく「長持ちするかどうか」を気にする人は少なくありません。実際セラミックは金属に比べると割れやすいイメージを持っている方も多いでしょう。過去にはオールセラミッククラウンが割れてしまったり、欠けたりするリスクが指摘されることもありました。これは適切な形に歯を削り、適切な厚さを保つことで割れるリスクが少ないことがわかっていますので、恐らくセラミックの治療に慣れていない歯科医師が行った治療ではないかと思います。また、かみ合わせに問題がある場合もセラミックが割れることがあります。かみ合わせについて精査した上で適切なセラミック治療を行うことでこれも回避できるため、気になる方はかみ合わせについても得意な歯科医院や力を入れている歯科医院でご相談されるのが良いでしょう。近年はジルコニアやE-maxなど高強度のセラミックスが登場し強度の面でも評価が上がっています。もちろん絶対に割れないというわけではなく、強い衝撃や歯ぎしりなどの習慣がある方にとってはリスクが高くなり得ますが、それでも歯科医院での適切な診断とメンテナンス次第で、長期的な使用に十分耐えうる素材となりました。
さらに、セラミックにはプラークが付着しにくいというメリットもあります。虫歯や歯周病の原因菌は、歯の表面にできる歯垢(プラーク)のなかで繁殖しやすいため、食べかすや歯垢が溜まりにくい表面性状であるセラミックは、口腔衛生面で優位とされています。ただし適切なホームケアや定期的なプロフェッショナルクリーニングを行わなければ、どんな素材であっても再治療が必要になるリスクはあります。セラミックを選ぶ人の多くは、歯科治療を“やりっぱなし”にせず、長く健康的な状態で維持しようとする意識が高い傾向にあるといえるでしょう。
保険外治療への抵抗感が薄れる背景
セラミック治療が自由診療(保険外診療)となる場合、メタルや保険適用のレジンよりも費用が高額になります。以前は、こうした高額な歯科治療に対して「歯にそんなお金をかけたくない」と考える人が比較的多かったかもしれません。しかし時代が進むにつれ、美容医療やエステ、さらには育毛やフィットネスなど、「身体の手入れ」に投資する感覚が一般的になってきました。歯に対しても同様に、「長く自分の歯を綺麗に保つための投資」という意識が広がったことで、保険外診療への心理的な抵抗が薄れていると考えられます。
また、クレジットカード払いやデンタルローンなど、支払い方法の多様化も背景にはあります。高額治療と一括くくりにして諦めるのではなく、月々の負担を抑えて計画的に支払うことができるのであれば、検討しやすいのではないでしょうか。さらに歯科医院によっては治療後の定期メンテナンスや保証制度を充実させ、患者さんにとっての安心感を高める取り組みも進んできました。「多少高額でも安心できる治療を受けたい」「長い目で見ればその価値がある」という考えを持つ人が増えることで、セラミック治療を選択するハードルは確実に下がりつつあります。
エイジングケアの一環として考える人
セラミック治療は、単なるむし歯治療や欠損部位の補綴だけでなく、“口元を整える審美ケア”という側面をもっています。加齢とともに歯の色は黄ばみやすく、また歯肉も下がってしまうことで金属やレジンとの境目が見えやすくなります。こうしたエイジングサインを気にする人にとって、セラミック治療は若々しい印象を取り戻す手段になり得るのです。実際部分的に黄ばんだ歯があるだけでも顔全体の印象は変わりますし、歯の色や形が整うことで一気に明るい笑顔を手に入れる方も多くいます。
美容院に通う感覚でホワイトニングに取り組む人が増えているように、歯の健康・美しさを保つこと自体がエイジングケアの重要な要素と捉えられるようになりました。美容施術の一環としてセラミック矯正やラミネートベニアなどを検討するケースもあり、こうした審美に対する高い意識をもつ層の方々は、補綴治療でもセラミックを選ぶ傾向が高いのです。
自分の人生観や価値観と照らし合わせる
セラミック治療のように高額な自由診療を受けるかどうかは、一種の価値観の問題とも言えます。たとえば車にお金をかける人、時計などのブランド品にこだわる人、海外旅行や趣味に熱中する人、さまざまな「お金の使いどころ」がありますが、そのなかで歯科治療に投資することを優先する人もいればそうではない人もいるのです。
セラミック治療を選ぶ人の多くは、歯の健康や美しさが「自分の人生を充実させるうえで重要な要素」だと考えているのではないでしょうか。職場でのコミュニケーションやプライベートでの交流においても、口元に自信があることで積極的になれる、相手にも良い印象を持ってもらいやすい、といったメリットを見いだす人は少なくありません。また一度治した歯は長期的なメンテナンスが必要ですが、その過程で歯科医院との信頼関係が築かれ、全身の健康維持にも配慮できるようになるという考え方も広がっています。近年よく聞かれるようになった言葉にオーラルフレイルという言葉があります。これは身体の衰えは口の衰えからという考えに基づいています。口腔機能の低下は全身の健康に大きな影響があることが分かってきました。実際の死因は「がん」「脳血管疾患」「心疾患」というものが多いですが、そこに至る原因が口腔内の状態によるものが一因になっているということです。口腔内の細菌によって全身に悪影響が出るというのは、口が食べものの入り口という特徴からも想像しやすいのではないでしょうか。気になる方は是非一度ご連絡ください。ご説明させていただきます。また歯科ドックという検査も用意しております。
セラミック治療を検討したい時は
セラミック治療を選ぶ背景には、審美性や機能性、金属アレルギーへの配慮など、さまざまな要素が複合的に関わっています。さらに保険外診療への抵抗感が薄れる社会的風潮や、エイジングケアの一環としての口元のケア、そして個々人の価値観の多様化も大きな要因となっています。単純に「金属よりも見た目が良い」というだけでなく、その人のライフスタイルや自己投資に対する考え方がセラミック治療を後押ししているのです。
実際のところ、歯科医師から見ても「必ずしもセラミックがベスト」というわけではないケースもあります。たとえば、歯ぎしりの程度が強い場合や、むし歯の範囲がごく小さく、簡易的に保険診療のレジン治療済む場合など、患者の状況によっては別の選択肢が適切なこともあるでしょう。また、コストの問題で治療を躊躇する方もいます。歯科の治療法は多岐にわたるので、専門家との相談を通じて、自分に合った選択を探すことが大切です。
とはいえ、審美的にも機能的にもメリットの多いセラミック治療は、今後も一定の需要があることが予想されます。もし、を治療する機会があるのなら、保険・自費を問わず、それぞれの素材がもたらす特徴やリスクを理解し、自分の価値観やライフスタイルに合った治療を選んでみてはいかがでしょうか。「もっと早くセラミックにしておけばよかった」と感じる人がいる一方で、「今の自分には別の方法が最適だった」と実感する人もいます。大切なのは、納得のいく情報を得たうえで、自分の納得のいく形で治療を行い、その後のメンテナンスもしっかり行うことです。
歯は食べる楽しみや会話の快適さを支え、私たちの表情や健康にも密接にかかわる体の一部です。セラミック治療を選ぶ人は、その歯を「大切なパートナー」として長く使いたいと考えるからこそ、自由診療の治療に踏み切るのかもしれません。歯科医療の進歩とともに選択肢はさらに増えるでしょうが、自分の歯と向き合い最適な治療方法を受けたいと思ったら、一度ご相談ください。健康な一生を送るために一生に頑張っていきましょう。