歯のコラム
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歯科医院の選び方──「保険が利くかどうか」だけで決めていいの?“その歯をどうしたいか”を考えよう
2025.07.04
1.“保険適用かどうか”が主役になりがちな日本の歯科事情
日本の医療保険制度は世界的に見ても充実しています。軽度のむし歯から抜歯、入れ歯作製まで、一定の治療が3割負担で受けられるのは大きな安心材料です。
しかしその一方で、「保険が利くなら受ける」「利かないなら諦める」──保険適用の有無だけを拠り所に治療を選ぶ人が根強く存在します。
でも、そもそも“その歯をどうしたいのか”によって合っている治療法は違うためどのような治療をしたいかという患者さんの希望がとても大切です。
2.なぜ多くの人は“保険適用”だけで治療を決めてしまうのか
原因 | 背景 | リスク |
---|---|---|
価格のわかりやすさ | 自己負担は3割、金額は点数で全国共通。「損をしない」安心感 | 長期的費用や時間(再治療・追加修復)が計算から抜け落ちやすい |
⾔葉のハードル | “自費”や“自由診療”という言葉が「高い・不要な贅沢品」のイメージを喚起 | 自分に本当に必要な治療についての情報が聞けない可能性がある |
医療は素人にわかりにくい | 保険診療は規格化されており説明が簡単。一方、自費は歯科医の技術差・素材差が大きく、患者は比較しにくい | “よくわからないものに高額を払う”不安から自費治療が選択肢から消えてしまう |
過去の成功体験 | 「保険の銀歯でも十分噛めた」「痛みさえ取れればOKだった」 | 年齢を重ねるにつれ咬合・審美・耐久性の要求が変わることがある 再発した歯は抜歯になることがある |
日本の医科の治療(病院の治療)は保険診療が中心です。先進治療や美容に関する治療は自費治療ということはみなさんご存じなのではないでしょうか。
例えば一重のまぶたを二重にしたい場合は保険診療ではできませんし、出来ると思っている方はほとんどいないと思います。ですので病院に行く前に治療方針を決めている患者さんが多いと思います。
一方で歯科医院では保険適用の治療の他にも行える治療が沢山あります。世界の先進的な歯科治療を行っている歯科医師の治療法や大学での研究結果が日本に入ってくるため、セミナーや書籍で勉強することで新しい治療法を使うことができるというのはとても良いことだと思います。ですが、病院でも歯科医院でも保険適用で行えるものは社会保険料という予算のなかから多くの治療費が支払われるため、国で認められた治療法のみ保険診療で行うことができるということになります。ですので保険診療で行える治療=良い治療 ということではなく世界中で行われている治療法の中の一部が保険診療適用になっているというのが歯科治療の特徴と言えるかもしれません。歯科治療は直接人命に関わるものではないということが関係しているかもしれません。(近年の研究では口腔の健康状態は長期的に寿命に関連していると言われています)
例えるなら、ミシュランの星を取りたいレストランが生の食材を使わないで料理しなければいけないとか、優勝をめざしているプロ野球チームが左利きの選手を使わずに試合をしなければいけないとか、制限を付けた状態での戦いを強いられることになるので目的よりも手段が重要視されていることになっているのかもしれません。
3.“その歯をどうしたいのか”本当の気持ちは?
3.1 治療方針を決めるために考えたいこと
1.5年後、その歯はどうなっていてほしいですか?
2.人前で見える場所ですが、見た目はどこまで気にしますか?
3.治療後のメンテナンスにどの程度の手間と費用を許容できますか?
「保険診療」か「自費診療」かの方向性を決めるために考えてみましょう。
1.の答え 絶対に歯を残したい→自費診療 歯を残したいがお金をかけたくない→保険診療
2.の答え 自然できれいな歯にしたい→自費診療 白ければ良いが銀歯でも良い→保険診療
3.の答え 再発が無いほうがよい、あった場合は早期発見したい→自費治療 痛いときだけ治療したい。定期検診は希望しない→保険診療
歯や歯肉はすぐに人命に関わるものではないことが多いです。(口腔がんなどを除く)ですので治療を優先しないという選択ができてしまいます。結果的に長期的に口腔状態が悪化していき、抜歯になってしまいます。
治療の精度を優先するのか、それともお金を優先するのかと考えるとわかりやすいと思います。しかしながら人間というのは欲張りなものですから「安くて」「最高」の治療を求めてしまいがちです。これが難しいということを説明するのは歯科医院における重要な業務です。そしてとてもトラブルになりやすいことだと感じています。
3.2 治療選択の典型パターン
保険治療での注意点
治療の希望 | 良い治療 | 保険治療での注意点 |
---|---|---|
痛みを取り、最低限噛めればOK | 保険内のレジン・銀合金修復 | 耐久性・二次カリエス予防力は素材的に劣る 再発ありきで考えた方がよい |
10年以上再治療したくない | セラミックインレー/クラウン、自費根管治療 | 保険材料・手技ではマージン精度が甘く再治療リスク増 再発までの平均年数は10年を越えないことが多い |
見た目も天然歯のようにしたい | フルジルコニア・e.max・ダイレクトボンディング | 保険のCRやCADCAM冠は色調再現はできず経年変色がある |
4.歯科医院の“治療方針”とあなたの治療方針はあっている?
外回りの仕事中にちょっとお腹が減ったというときにファストフードや立ち食いそば屋さんはとても便利です。コースでゆっくりと料理を食べるようなお店だと休憩時間で食事が終わらなかったり、次のアポに間に合わなくなってしまいます。逆に家族のお祝いでファストフードや立ち食いそば屋さんに行くということはないと思います。どちらが良い悪いではなく、お客さんとお店のニーズが合うかどうかということです。
私は日本臨床歯科学会に所属しています。講師の先生方は名医と呼ばれる方も多く症例発表を見ても難症例を治しているのでとても勉強になります。皆さんもこのような先生に治療を受けたいと思ったかもしれません。もちろん良い治療を受けたいと思った時にはとてもおすすめしたい先生方です。ではそういった先生のネットでのクチコミはさぞかしすばらしいものばかりだと思ったかもしれません。もちろんそういった先生も多いです。でもよく口コミを見てみると「治療費が高い」「治療の時間が長い」「治療期間が長い」「キャンセルをしたら怒られた」といった低評価がついていることがあります。多くの患者さんは良い治療を求めて探したうえで治療を受けているのですが、「近いから」「ネットの評価が高いから」「近い日程で予約が取れたから」といった理由で治療を受けただけの方から酷評されてしまうことがあるわけです。これは歯科医院側からすれば「難しい症例は自費治療でないとできない」「難症例は1回の治療に時間がかかる」「難症例は長期的に治療をしないと根本的に治らない」「長時間の治療なのでキャンセルされて時間が空いてしまうと困る」といった理由があります。フランス料理やお寿司屋さんで当日のキャンセルはコース料金の全額がキャンセル料でかかるということと同じかもしれません。繰り返しお伝えしますが、どちらが良いというお話ではありません。患者さんと歯科医院のミスマッチがあるということです。
5.よくある治療例
長年治療を行っていますので、びっくりするようなめずらしい症例に出会うこともありますが、多くの症例は過去に同様の治療を行っていることが多いです。患者さんにとっては28本あるうちの歯の1本ですので初めての経験ですが、歯科医師にとっては年間数百本~数千本治療しているので似たようなことは多くあります。そんな中からよくある治療例についてお伝えします。
Case 1|30代・男性・右上犬歯の虫歯
・当初の希望:痛みがないので保険内CRを希望
・医師の提案:咬合負荷が強い位置なのでセラミック+ナイトガード併用を推奨
・決断:“その歯を10年以上再治療しなくても良いように自費選択
・結果:費用はかかったが、5年経過でも変色・脱離・虫歯の再発はなし
Case 2|40代・女性・銀歯が外れた
・当初の希望:とりあえず再装着(保険)
・医院選択:保険中心の高回転クリニックへ
・結果:1年で再脱離、周囲に虫歯 深い位置まで虫歯があったため神経を抜く治療に
・追加費用や治療回数:神経を抜く治療+銀歯のかぶせものの治療で複数回の治療と費用がかかった いずれ抜歯も予想される
6.よくある疑問Q&A
Q | A |
---|---|
保険の銀歯とセラミック、どのくらい持ちが違う? | 平均5〜7年で再治療が必要という報告が多いのが銀歯。セラミックは装着方法と咬合管理次第で10年以上もつことも多い。 |
自費治療は本当に高すぎない? | 技術料+技工料(セラミック作製)+その他材料費+顕微鏡などの設備費が含まれる。再治療の手間や不便な期間、痛みが無いことをどれだけ価値があるかと考えるかによる。 |
“必要最低限”の治療なら保険で十分? | 部位・噛み合わせ・審美要件など症例によってはYES。ただし「虫歯になったらまた削る、いずれ抜歯に近づく」サイクルになることを理解して選択をされると良いでしょう。 |
7.まとめ──“保険か自費か”ではなく“将来の歯の姿”で決める
1.保険適用の有無は重要な判断材料だが、それは“手段”であって“目的”ではない。
2.「その歯をどうしたいか」を先に決めれば、自ずと治療法・医院の選択はクリアになる。
3.長期視点で自費を選んだ方が、結果的に少ない通院回数・低ストレス・総費用減につながるケースが多い。
4.迷ったら“歯の治療至上主義”を掲げる医院でセカンドオピニオンを。 技術をアピールする歯科医院はある意味「職人気質」。サービス業ではないことを念頭に治療について相談をされると良いでしょう。治療方針は歯科医院、歯科医師ごとに違います。自分に合った歯科医師の元で治療を受けるのが一番。