歯のコラム
- トップページ
- インプラント治療って怖い?高い?
インプラント治療って怖い?高い?
2025.07.11
私は口腔外科出身ということもあって、今もお付き合いさせていただいている学生当時の指導医の先生方も口腔外科の先生が多いです。インプラント学会に誘われて所属しているのですが、インプラント治療というのはとても奥が深い治療だと思います。手術が苦手な歯科医師は全く行わない治療ですし、患者さんも手術が苦手な方は選択肢から消してしまう治療法だと思います。といってもインプラントに限らず外科手術というのは積極的に受けたいというものでもないと思いますので、苦手意識と、治療後のメリットをてんびんにかけてどちらを選ぶかというのが本音のところではないでしょうか。
歯科医師が考えるインプラントと他の治療の違い
虫歯の治療は硬い歯に銀歯やセラミックを入れるということで、どこか工作のような雰囲気があると思う方も多いのではないでしょうか。実際に歯科で使われるレジン治療はプラモデルやネイルで使われるレジンと同じ性質を持っていて、やわらかい素材を光を当てて固めるというものです。
一方インプラント手術は歯肉や骨といったやわらかい組織に対して行う治療です。骨がやわらかい?と思ったかもしれませんが歯に比べると骨はやわらかく、そして再生します。骨折しても元に戻る性質があります。歯肉も傷つけてしまってもいずれ回復します。
歯の治療、歯肉の治療、インプラント手術、それぞれ違った難しさがありますが、ことインプラントに関して言いますと、骨の状態が非常に難易度を左右すると思います。インプラント手術を行うということはその前に抜歯があるわけですが、では抜歯の理由はどんなものがあるでしょうか。怪我や事故、虫歯、歯周病、歯の根が割れた・折れた、歯の根の炎症がひどい、などなど様々な原因があります。そしてその原因によって歯の根の周辺の骨の状態が変わりますので、より悪い状態であれば手術の難易度が上がり、治療費も比例して上がります。
そもそも、なぜ「インプラント」なのか?
歯を失ったとき、多くの方がまず頭に思い浮かべるのは入れ歯やブリッジかもしれません。もう1つの治療法、インプラント治療も当院ではおすすめしています。
「インプラントって痛そう」「高そう」「怖い」といったイメージを持たれている方が多いのも事実ですが、症例によってはインプラントが一番良い治療法であることも多く、噛む機能を取り戻すのには合っている治療法です。
インプラント治療に対する不安をできるだけ無くして安心して治療を受けられるように“ポジティブな視点”と“懸念されがちなポイント”の両方からお伝えいたします。
【ポジティブな側面】インプラントの魅力とは?
1.自然な見た目と噛み心地
インプラントは人工歯根を顎の骨に埋め込み、その上にセラミックなどの人工歯を装着する治療です。
この構造により、見た目は天然歯と区別がつかないほど自然に、違和感のない噛み心地を得ることができます。入れ歯のようにズレたり、ブリッジのように両隣の健康な歯を削ったりする必要もありません。
2.噛む力と機能性の回復
咀嚼力の回復は非常に高く、天然歯の約80〜90%をカバーできるとされています。食事の制限が少なく、「好きなものをしっかり噛んで味わう」生活の質(QOL)を取り戻すことが可能です。
3.周囲の歯に負担をかけない
従来のブリッジ治療では、欠損部の両隣の健康な歯を削る必要があります。
インプラントは独立した構造であるため、周囲の歯を犠牲にすることなく治療ができるという点も大きな利点です。
4.長期的な安定性
適切なメンテナンスを続けることで、10年、20年と長期にわたって安定して使い続けられるのがインプラントの強みです。
実際、10年以上の使用でも良好な状態を維持している方は数多くいらっしゃいます。
【懸念されやすい点】不安要素と向き合う
もちろん、どんな治療にもメリットとデメリットはあります。
インプラント治療に対してよく聞かれる不安と、それに対する歯科医師側からの意見をご紹介いたします。
1.「治療が怖い」「手術が心配」
インプラントは外科処置が必要となるため、「痛いのでは?」「腫れるのでは?」といった不安を抱く方が多いです。
しかし、局所麻酔による無痛治療が基本であり、処置時間も1~3時間前後。術後の腫れも2〜3日程度で治まるケースがほとんどです。
また、最新のデジタルCTやガイデッドサージェリー(骨の状態を確認してインプラントの手術位置を決め、ガイドと呼ばれるどこにインプラント体を入れたから良いかわかりやすい補助器具を使った手術)の導入により、安全性は向上しています。
2.「費用が高い」
確かに、保険適用外であるインプラントは治療費が高額になりがちです。
しかしインプラント手術を行える歯科医院や歯科医師は増えているとはいえ、全体の歯科医院から比べると数割の歯科医院です。手術には高度な技術、設備、プランニングの時間といった技術料が多く含まれます。また国産のインプラントもありますが、海外製のインプラントも多く、材料費や器具、機材の費用がかかります。歯学部を卒業してすぐに手術をする歯科医師はいません。その後口腔外科で技術を磨いたり、有料のセミナーに参加したりしながら技術を獲得していきます。人的コストが非常にかかる治療法と言えるかもしれません。
しかし、「今安く済ませる」か、「将来的な再治療を避ける」「おいしいものを不安なく噛んで食事を楽しむ」という視点で比較したとき、インプラントの価値がわかりやすいと思います。
分割払いや医療費控除を利用できるケースもあるため、無理のない支払い計画を立てることも可能です。
3.「骨が足りないと言われた」「断られた経験がある」
過去にインプラントを断られた経験のある方も、骨造成(GBR)やサイナスリフトなどの技術を持つ医院であれば、治療が可能なケースもあります。
難症例対応の経験豊富な医院を選ぶことで、選択肢が広がる可能性があります。
4.【噛みごこちが自分の歯とは違うと聞いた】
インプラントは、天然歯と違って「歯根膜」が存在しません。歯根膜とは、歯と顎の骨の間にあるクッションのような膜で、噛んだときの微妙な圧力や振動を感知するセンサーの役割を果たしています。これにより、私たちは無意識に「これは固い食べ物だ」「これはやわらかい」といった食感を感じ取って、力加減を調整しています。
一方、インプラントは顎の骨と直接結合しているため、こうした感覚フィードバックはほとんどありません。つまり、**感覚の鋭敏さという点では、天然歯には及ばない**のです。
そのため、治療直後には「噛んでいる感覚が少し鈍い」「力加減が難しい」と感じる方もいらっしゃいますが、多くの方は数週間〜数ヶ月で慣れていきます。また、インプラント治療を行う医院ではこの点も考慮して、**咬合調整(噛み合わせの調整)を慎重に行うことで、違和感を最小限に抑える工夫**をしています。
天然歯とまったく同じ感覚を取り戻すことは難しいかもしれませんが、**機能性・見た目・咀嚼力の回復という観点では極めて高い水準**を実現できるのが、インプラントの現在の技術です。
【医院選びのポイント】インプラントはセカンドオピニオンも検討を。
インプラントの成功は「どこで治療を受けるか」に大きく左右されます。
以下のようなポイントを基準に医院を選ぶことをおすすめします。
– CT・マイクロスコープ・ガイド手術対応など設備が充実している
– 経験・実績豊富なドクターが在籍
– 症例写真や実績数を公開している
– 治療計画を丁寧に説明してくれる(費用も含む)
– 定期メンテナンス体制が整っている
– 患者の声(口コミ)やGoogleレビューが信頼できる
インプラント手術は高額な治療ですので歯科医師の説明を受けて、納得出来たら治療を行うことをおすすめいたします。もしわかりにくいところがあれば再度ご質問されるのが良いでしょう。もしわかりにくければ他院でセカンドオピニオンを受けるのも良いと思います。ただ、治療後は定期的にインプラントのメンテナンスを行う必要がありますので、治療はA医院、メンテナンスはB医院といった使い分けをせず、同じ医院に通うことをおすすめいたします。
【よくある誤解】
「インプラント=ダメになって取れてしまった」「人工物だから異物感がある」
こうしたイメージは、過去の古い情報やトラブル事例に起因していることが多いです。
確かに、こういったトラブルはゼロではありません。しかし、しっかりとした技術がある歯科医師のもとで手術を行い、その後丁寧なメンテナンスと患者自身で行う適切なケアがあればインプラントは非常に長持ちする治療です。
「トラブルが怖い」
大切なのは術前診断の徹底と、術後のフォロー体制です。
「治療したら終わり」ではなく、定期的なメンテナンスと患者教育が充実している医院を選ぶことで、トラブルの多くは未然に防げます。
最後に:未来の自分に、どんな口元を残したいか?
インプラント治療は、単に「歯を補う」だけの手段ではありません。
それは、「食べる喜び」「話す楽しさ」「見た目の自信」を回復し、人生の質そのものを取り戻す治療でもあります。
短期的な不安や費用だけに目を向けるのではなく、「5年後、10年後の自分がどんな口元で、どんな生活をしていたいか?」という視点で考えてみて、少しでも興味を持ったら歯科医院で相談をして、受けたいと思った時にインプラント手術に踏み切るのが良いと思います。「歯科医院が勧めるから」といった理由でだけで受けるには費用の高い治療法だと思います。
★インプラント手術は歯を抜く前にご相談を★
実はインプラント手術は歯を抜く前からご相談された方が治療の計画が立てやすい治療です。歯を抜く際に骨の状態を確認したり、抜歯と同時に骨増生手術を行ったり、骨の状態によっては抜歯と同時にインプラント手術が出来ることがあります。虫歯や歯周病で歯を抜かなくてはいけないと言われたら、「抜いたらその後の治療はどうなりますか?」と聞いてみることをおすすめいたします。
【よくある質問(Q&A)】
Q1. インプラントはどのくらいの期間もちますか?
A1. 適切なメンテナンスとセルフケアを行えば、10年以上にわたり良好な状態を維持することができます。実際には20年以上使い続けている方もいます。
Q2. 手術は痛くありませんか?
A2. 手術中は局所麻酔を行うため、痛みを感じることはほとんどありません。術後も痛み止めの処方があるため、多くの方が問題なく日常生活を送っています。
Q3. 治療期間はどれくらいかかりますか?
A3. 骨の状態によりますが、一般的には3〜6ヶ月程度が目安です。骨造成などの追加処置がある場合は、もう少し長くなることもあります。
Q4. インプラントに年齢制限はありますか?
A4. 骨の成長が終わっている成人であれば、高齢でも治療可能です。健康状態や持病の有無などを考慮した上で判断されます。
Q5. 保険は使えますか?
A5. 基本的には自由診療(保険適用外)です。ただし、先天的な疾患による喪失など、特定条件下では保険適用となることもありますが大学病院などの設備が整っているところに限られます。一般的な歯科医院では行わず紹介状をお出しし大学病院などでの診療を経る流れになります。
Q6. メンテナンスはどのくらいの頻度で必要ですか?
A6. 一般的には3〜6ヶ月に1度の定期検診が推奨されます。インプラント周囲炎などのリスクを未然に防ぐためにも、継続的なメンテナンスが重要です。
Q7. 手術が怖い場合はどうしたら良いですか?
A7. 静脈内鎮静法という治療法があります。眠くなる薬を使いながら半分眠っているような穏やかな状態でインプラント手術を受けることができます。手術後は手術中の事を覚えていないことがほとんどです。インプラント手術に恐怖心がある場合にはとてもおすすめの治療法です。