歯のコラム
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セラミックについて友人と語ったこと
2025.05.16
歯科医師同士で集まってお酒を飲むと、やれ最新の治療法がどうだ、あの症例はこう対応したらうまくいった、いやそこはこうする方がいいなど、ほとんど延々と歯科の話ばかりで盛り上がってしまいます。職業柄というのもありますが、お互い同じ現場にいる者同士だからこそ通じる視点や共感があり、気づけばあっという間に時間が過ぎてしまうのです。
ところが歯科関係者ではない友人や知り合いと飲みに行くと、別の意味で歯科の話題がよく出ます。「歯医者ってどこが良いのか選び方がわからない」「最近、歯がしみるんだけど、すぐに受診したほうがいい?」といった素朴な質問から、クラウンやブリッジ、インプラントに関する疑問まで、多種多様なものが飛び交います。中でも多いのが「セラミック治療って何がそんなにいいの?」「見た目を気にしないなら銀歯でも全然いいんじゃない?」といった声です。実際、銀歯(保険適用のメタルクラウンやインレー)とセラミック(自由診療が中心の白い被せ物や詰め物)は、患者さんから見れば「色が銀か白か」という違いにしか感じられないかもしれません。しかし、歯科医の立場からすると、この二つには素材の特性や治療の長期的な影響など、さまざまな面で差があると考えています。
そうした話題に対して私がどんなふうに捉えているのか、患者さんからよくいただく疑問をきっかけにまとめてみたいと思います。「セラミック治療は保険が利かないし、高いお金を払うほどのメリットがあるのか?」と感じている方や、これまで銀歯を使ってきたけれど、もしやり直すならセラミックにしようか迷っている方の参考になれば幸いです。
銀歯の取れた部分から虫歯が広がるケース
まず、患者さんからよく耳にするのが「銀歯が取れたら、その下(中)が虫歯だらけだった」という体験談です。実際、銀歯は熱膨張率や硬さといった面で歯の組織とはかなり異なる素材のため、長年使っていると歯との間に微細な隙間が生じやすくなります。そうした隙間から細菌が侵入し、内部で知らないうちに虫歯が進行していることが珍しくありません。銀歯はレントゲンを通さないので検診で内部の確認がしにくい素材です。「取れて初めて状態の深刻さに気づいた」という方は少なくないのです。実際に歯科医院の口コミに「検診を受けていたのに虫歯になった」と最低評価をつけることも良くみかけます。エスパーではないので見えないものは見えないですし、実際に銀歯を選んだのはご本人です。口腔内に虫歯の原因菌が多いものまたご本人の責任です。説明が足りなかったことや、説明をしたとしても時間が経つと忘れてしまうということを考慮して何度も定期的に伝えるといったことが必要というのがこのネット口コミ時代に歯科医院が悩む原因の一つと言えるかもしれません。歯科医院からしたら銀歯がまた虫歯になったとしても驚かないですし、患者さんもよくあることだと自然と受け入れている方が多いと思います。
もちろん、銀歯であっても装着後のチェックや定期健診で早期に問題を発見していれば、再治療のタイミングを逃さずに済んだケースもあります。急な痛みや急な銀歯の外れはどなたも避けたいことでしょう。しかし、痛みなどの自覚症状がなければ受診を先延ばしにしがちなこともあり、一度大きく進行した虫歯は、結果としてさらに大きな処置を必要とする場合があります。神経を抜く処置は治療の時間も費用もかかります。
セラミックの素材的な特徴
一方のセラミックは、歯に近い硬さを持つ素材を用いることが多いです。歯との境目で極端な歪みが生じにくいため、きちんと装着されたセラミックは銀歯ほど隙間を生みにくいとされています。詰め物や被せ物が長期間安定しやすいというのは、虫歯の再発リスクを抑えるうえで大きなメリットです。
さらに、セラミックは表面が滑らかで汚れが付きにくい特性があり、プラークが溜まりにくく歯石つきやすい性質があります。材質としても金属アレルギーのリスクが極めて低いため、金属アレルギーが気になる方や、既に皮膚科などで金属アレルギーと診断された方には安心材料となります。治療費の面では保険適用外のため高額になりやすいのが難点ではありますが、それでもセラミックを希望する方が増えている背景には、こういった素材本来の利点や安全性への期待があります。
「見た目以外のメリットはあるのか?」
患者さんの中には「セラミックって結局は見た目が良いだけでしょう?」と思われている方も少なくありません。ですが実際には、上述のように虫歯の再発リスク、汚れの付きにくさ、金属アレルギーの回避など、審美以外の多くの要素が関係しています。もちろん、歯科医師の技量や医院の設備、使用するセラミックの種類(ジルコニアやe.maxなど)によって仕上がりの精度が変わる部分もあるため、「セラミックなら絶対に虫歯にならない」というわけではありません。それでも、銀歯との比較でいえば適合性や耐久性、美しさの面で優位性を感じることが多いのは事実です。
また、セラミックは自然な歯の透明感や色合いを再現しやすいため、「口を開けたときに銀色が目立って嫌」という心理的なストレスを軽減できます。笑顔に自信が持てるようになったり、接客業や人前に出るお仕事をされている方などにとっては、見た目の改善効果が日常のモチベーションに繋がる例もあります。
素材選択に迷ったときの考え方
ただし、だからといって「銀歯=悪」で「セラミック=善」という単純な図式で語れるわけではありません。銀歯であっても、定期的に健診やメンテナンスを受け、問題があれば早めに対処していけば長持ちするケースはあります。逆に、セラミックを選んだとしても、清掃が不十分だったり歯ぎしりが強かったりすると割れや欠けが生じることもあります。
私が診療で重視しているのは、患者さんがどのような価値観を持ち、どのようなライフスタイルや予算、健康に対する考えをお持ちなのかを丁寧に伺ったうえで選択肢を提示することです。たとえば「結婚式を控えているから、少しでも見た目を良くしたい」「金属アレルギーがあり、金属を使いたくない」「できるだけ長い目で再治療を減らしたい」という方にとっては、セラミック治療は強い味方になるでしょう。反対に「現在は経済的に余裕がないので、なるべく保険治療で対応したい」「昔から銀歯だけど特にトラブルが起きたことがなく、不安を感じていない」という方なら、すぐに高額な治療を勧める必要はない場合もあります。
虫歯再発を防ぐために大切なこと
「銀歯の下が虫歯になりやすいなら、全部セラミックに変えたほうがいいんだろうか」と考える方もいらっしゃいますが、歯科医師としては安易に全面的な交換を推奨するのではなく、まずは今ある銀歯をしっかり検査し、必要があれば交換し、問題がなければ定期的に状態をチェックするというスタンスが大切だと思っています。歯科治療の基本は、歯や歯ぐきの状態をきちんと把握し、問題点があれば早期に対処し、日常のケアを継続していくことです。
素材の違いによるメリット・デメリットを理解したうえで、自分に合った方法を選択し、治療後も定期健診やクリーニング、セルフケアを怠らないことが虫歯の再発を防ぐ最大のポイントです。セラミックであろうと銀歯であろうと、プラークコントロールが不十分な状態が続けば虫歯や歯周病が進行するのは同じです。結局は「治療が終わってからのケア」が最も大事だと言えます。
長期的な歯の健康と向き合うために
歯科医師同士で飲むと、どうしても「難しい症例をどう処理したか」「最近の材料はこんなに進歩している」など専門的な話題がメインになります。一方で一般の方と飲む機会があると、「保険治療と自費治療の差がよくわからない」とか「歯科医院はどんな基準で選べばいいの?」といった実感に根ざした質問をたくさんいただきます。そういうときこそ私自身、「歯科医療の専門家として、もっと患者さんが理解しやすい情報提供が必要だな」と感じるのです。
セラミック治療は決して安価ではありませんが、歯やお口の健康に対する投資と捉えれば、得られるメリットも大きい治療法です。と同時に、全員が一律に「銀歯よりセラミックが絶対にいい」とは言い切れないのも事実。大切なのは、患者さん自身が「将来どんな歯でいたいか」「どのくらい投資が可能か」「どれだけメンテナンスに時間や手間をかけられるか」といった点を見つめ直し、納得のいく選択をすることです。歯科医師としては、そのために必要な知識や情報を分かりやすく伝えると同時に、治療後のフォローアップや定期的なアドバイスにも力を注ぎたいと思っています。
最後に
銀歯とセラミックの違いを一言で説明するなら、単に「見た目が違う」だけではなく、素材の特性や歯との適合性、長期的な口腔環境への影響など多角的にメリット・デメリットがあるということです。銀歯が取れてしまったときに中が虫歯になっているケースが多いのは事実ですが、その背景には材質の問題だけでなく、定期的なチェックの不足やセルフケアの甘さなども絡んでいます。
セラミック治療は保険が利かず高額になりがちですが、歯との相性の良さや審美性、アレルギーリスクの低さなど、投資に見合うメリットが期待できる治療でもあります。最終的には患者さんご自身のライフスタイルや価値観、経済状況、口腔内の状態を総合的に考え、歯科医師とのコミュニケーションを通じてベストな選択肢を見つけることが大切です。
普段の何気ない飲みの場で、「歯科ってよくわからないけど、なんだか難しそう」という声を耳にするたびに、歯科医療に携わる者としては「もう少しわかりやすく情報を伝えられたらいいのにな」と思わずにいられません。このコラムが、セラミック治療を含むさまざまな歯科治療を考えるうえでのヒントになれば嬉しいです。治療後のメンテナンスや定期健診を怠らず、ぜひ長い目で歯の健康を守っていっていただきたいと思います。自分の歯で食事を味わい、笑って過ごせる生活は人生の質を大きく左右するものです。気になることがあればいつでも歯科医院に相談し、歯やお口の健康を長く維持できるよう取り組んでみてください。
最後にひとつ言いたいことがあります。
「なんでもいいから銀歯でいいや」「説明は特にいらないから銀歯でいい」「歯がどうなってもいい」といった投げやりな姿勢の患者さんは非常に苦手です。治療にやりがいがありませんし、セルフケアに興味がなければいずれ歯を失っていきます。未だに全ての歯を失ってしまう方も多くいます。
今まではあまり気を使ってこなかったが今後は口の環境を良くしたいという方の治療は一緒に頑張りたくなります。とても難症例なことが多いですし、治療の時間も治療費もかかりがちです。そういった治療を好まない歯科医師もいます。しかし私はそういった方の治療を一緒に頑張りたいと思っています。そのためのセミナー参加や歯科医師との意見交換を交えた飲み会が好きです。
投げやりな患者さんは歯の状態に対する責任を自分で負わないため歯科医師に押し付けがちです。虫歯も歯周病も身体の病気のひとつです。生活習慣病と言えるでしょう。脳や内臓の疾患と同じです。違う点があるとすれば、すぐに命の危険に関わることがあるのが病院で、長い目で見て寿命に関係するのが歯科です。口の健康もご自身の身体のことだと理解していただき、少しでも健康になれるように取り組んでいきましょう。