歯のコラム
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7年目を迎えて 治療方針のご説明
2025.05.23
7周年を迎えました
京橋歯科医院を開業して、気づけば7年の月日が経ちました。開業前に物件探しをしていたのがつい最近の様に感じられます。東京駅から縦横の道を歩き、空きそうなテナントにチェックをして不動産屋さんに通っていました。治療については慣れていたつもりでしたが、医院の運営については最初、右も左もわからず、慣れない新患対応に追われる毎日。やっとオープン準備を終えて迎えた開院初日は、患者さまをお待ちする間の時間がやけに長く感じられたものです。しかし、いざ扉を開けば「近所に新しい歯医者さんができたんですね」と、ご近所にお住まいの方々が次々に来院してくださいました。初めての方ばかりですから、当然ながら治療前のカウンセリングや検査で時間がかかるものの、新鮮な緊張感とやりがいを噛みしめながら、スタッフ一丸となって日々を乗り切っていたことを思い出します。
そんな日々を送るうちに少しずつ患者数も増え、気づけば開院から1年が経過。患者さまの傾向も少しずつ変わってきました。最初は「とにかく歯が痛いから診てほしい」「銀歯が取れてしまったのでどうにかしてほしい」といった急患・新患が圧倒的多数でしたが、次第に「前に治療したところの定期健診をお願いしたい」「歯石取りやクリーニングを受けたい」といった、継続的なメンテナンスを希望される方が増えていったのです。これにはこちらも驚きと同時に大きな喜びを感じました。それまで歯科はどうしても“痛くなったら行く場所”という認識が根強かったように思います。しかし、開業2年目、3年目と経つにつれ、地域の方々が「予防」という概念を少しずつ受け入れてくださり、定期的なケアを望まれるようになっていったのです。
当時はまだ「予防歯科」という言葉はある程度は認知されていたものの、「よほど意識の高い人が行くもの」というイメージを抱かれている節もありました。それが今となっては、定期健診が当たり前になりつつあります。初めは虫歯や歯周病の治療を優先していた方も、ひと通り治療が終わったあとは3~4か月ごとにきちんと検診やクリーニングに通ってくださることが増えてきました。これは、歯科医師として何にも代えがたい大きな成果だと感じています。
一方、この数年で大きく変わったと言えば、やはり新型コロナウイルスによる来院行動の変化は外せません。コロナ禍が本格化した2020年以降、しばらく歯科通院から足が遠のいてしまった患者さまも少なくありませんでした。実際、感染リスクを恐れて歯科はもちろん病院全般に行きたくないという方々の気持ちはよく理解できます。私たちも、患者さま同士が待合室で密にならないよう予約を調整したり、徹底した消毒や換気を行ったりと、院内感染防止策をとっていましたが、世の中全体が不安に包まれる中で通院を躊躇されるのは仕方のないことだったと思います。
ところが最近になって、久しぶりに来院される患者さまがまた増えてきました。「コロナで行けなくなってから、もう2年半ぶり、いや3年ぶりですね」という言葉をしばしば耳にします。実際にお口の中を拝見すると、やはり歯周病が進行していたり、大きな虫歯ができていたりと、少々残念な状態に陥っている方が少なくありません。「あの時期にきちんと来られなかったし、コロナが落ち着いたらまたちゃんと行こうと思ってたんです」とおっしゃるのを聞くたびに、定期健診の大切さを改めて痛感します。
歯周病や虫歯のような口腔疾患は、一見すると進行に時間がかかるように思われますが、それでも放置すれば放置するほどダメージが蓄積され、治療が大掛かりになるケースが多くなります。早期発見・早期治療が原則である歯科領域では、「痛くなってから行く」のではなく「痛くなる前に定期健診を受ける」という行動が本当に重要です。コロナ禍によって健診の機会が途絶えてしまった方々ほど、改めてご来院された際には治療が必要な箇所が多いわです。こうした実例を通じて、私自身も「再び同じ状況が起きても、通院の機会をどう確保していただくか」を課題として考え始めました。余談ですが、口腔環境は感染症に対してとても関連しているという研究結果があります。簡単に言うと歯周病のような歯肉にダメージがある方はウイルスの感染を受けやすいということです。歯科医院でのクラスター感染は当時耳にしませんでした。
7年目を迎えた今、医院の治療スタイルも少しずつ変化しています。開業当初は保険診療が6割、自費診療が4割という割合でしたが、ここ1~2年ほどは自費診療が7割を占めるようになりました。特にセラミックの治療は件数が非常に増えました。学会で出会った仲間や今まで勤めていた歯科医院の友人と話す機会が多いのですが、セラミック治療は周囲の歯科医師より治療件数が多いように思います。インプラント治療についても難症例に対応できるようになりました。これは決して「高い治療をおすすめしたい」ということではなく、患者さまのニーズが大きく変わってきたからこそ生まれた変化だと思っています。かつては、どちらかと言えば「費用を抑えたい」「とりあえず急場をしのいでほしい」という治療の要望が多かったのですが、いまは「長く持つ治療を受けたい」「再治療を繰り返すより、最初から良い素材でやってほしい」というご意見をよくいただくようになりました。その背景には、インターネットやSNSなどで歯科医療に関する情報が手軽に入手できるようになり、患者さま自身がさまざまな治療内容をあらかじめ知っているケースが増えたことがあるのだと思います。
また、医院のスタッフ体制も変わりました。私自身は自費治療や予防歯科の検査である歯科ドックの担当が主となり、保険適用がメインの処置は勤務医が担当するという分業を進めています。そうすることで、患者さまの治療計画に合わせて最適な治療を行えるだけでなく、医院全体の診療効率も向上しました。地域の患者さまにとっては「とにかくすぐに痛みをとってほしい」「職場の検診で虫歯が見つかったから保険診療でお願いしたい」という場面がまだまだ多いのも現実です。しかし同時に、「セラミックなどで金属アレルギーのリスクを減らしたい」「歯を削る量を最低限にしたい」といった要望も増えています。このようにニーズが多様化し、それぞれに最適な処置を提案できる体制が整ってきたのも、開業してから7年という時を経て得られた成長の一つでしょう。
とはいえ、今後も変化は続いていくはずです。医療技術は日々進歩しており、デジタル機器の活用やマイクロスコープを用いた精密治療、3Dプリンターを使った補綴物の製作など、歯科医療を取り巻く環境は劇的に変わりつつあります。患者さまのニーズもさらに多様化し、「歯並びも一緒に直したい」「歯茎の黒ずみが気になる」「高齢の親の介護で口腔ケアを教えてほしい」など、治療だけにとどまらない幅広い要望をお持ちになるでしょう。こうした時代だからこそ、私たち歯科医師も学び続け、常にアップデートしながら地域の方々の声に応えていかねばならないと感じています。
ネガティブな要素ともいえるのですが、社会保険料の予算が厳しくなっています。今までのような保険診療が行えるのかという心配事も増えてきました。
また、最近の京橋歯科医院は「予防」「審美」「矯正」「全体的な治療」といった多面的な役割を担うようになりました。とりわけ予防については、口腔内だけでなく全身の健康に与える影響も見逃せません。歯周病が糖尿病や心疾患など全身疾患のリスク因子として注目されていることは、すでに多くの研究で指摘されていますし、咀嚼(そしゃく)の能力が低下することによる認知症リスクの上昇も問題視されています。歯が痛くなる前、歯が失われる前の「転ばぬ先の杖」として、定期健診に通い続けることの価値は今後ますます高まるはずです。
7年という一区切りを迎えた今、改めて振り返ると「歯科医院は、患者さまの人生に寄り添う場でありたい」という思いがより強くなりました。生涯を通じて歯を守り、ひいては全身の健康をサポートするための拠点として、歯科医院が地域社会で果たす役割は大きいと考えています。もちろん、そのためには患者さまとのコミュニケーションが欠かせません。カウンセリングや定期的なフォローを通じて、お一人おひとりのご希望や状況をきちんと把握し、最適な治療やケアを一緒に考えていくことが大切です。その結果として、患者さまにとって「歯医者さんは怖くない」「行くと安心できる場所」というイメージが根づいていけば、こんなに嬉しいことはありません。
これまで訪れてくださった患者さま、そしてこれからご縁をいただく患者さまに対して、私たちができることは何か。7年という節目は、そうした問いを立ち止まって考えるいい機会でもあります。コロナ禍で途絶えてしまった通院習慣を再開し、再び歯科医院に足を向けてくださる方々がいることへの感謝を胸に、さらに質の高い診療環境と予防歯科を整えていきたい。遠方からお越しになる方も含め、通いやすさの工夫や、よりわかりやすい説明ツールの導入など、次のステップに向けた準備はいくらでもあります。
歯科医院は常に変化し続ける場所であり、そこに集う人々もまた多様です。しかし「口腔の健康を守り、生き生きとした毎日をサポートする」という私たちの使命は変わりません。7年目を迎えた今、開業当初のフレッシュな思いをもう一度心に刻み直し、次の10年、20年に向けて新たな一歩を踏み出そうと決意しています。定期健診を受けてくださる方が増えたこと、そして久しぶりに通院を再開してくださった方がいること――そのどちらもが、私たちの励みであり、歯科医療の持つ意義を再確認させてくれる出来事です。
もししばらく歯医者さんから足が遠のいてしまっている方がいましたら、ぜひこれを機に思い出してください。早めに来院すれば、その後の人生で歯を失うリスクを減らすことができます。痛みや違和感がなくても、検診を受けておくことで口腔内だけでなく全身の健康にも良い影響があるのです。コロナ禍での不安が落ち着きつつある今こそ、新しい習慣として定期健診をスケジュールに組み込んでいただければ嬉しく思います。7年目の京橋歯科医院は、これまで以上に京橋地域のみならず、中央区、東京都、近隣県のみなさまの笑顔を支える場として進化し続けていきます。