歯のコラム
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「歯を磨いてもらうこと」「治療を受けてもらうこと」 ――“若いうちの貯金”が晩年の生活を支える
2025.06.13
歯科医院には日々、さまざまな理由で患者さんが来院されます。歯がしみる、痛む、詰め物が取れた、歯肉が腫れてしまった――症状はそれぞれ異なりますが、どの患者さんにも共通してお願いしたいことがあります。それは、「日々の歯磨きをきちんとしてもらうこと」と「必要な治療を先延ばしにしないこと」です。
実は、歯科医院が抱える大きな課題として、日頃からのセルフケア(歯磨き)への意識不足や、痛みや不安、金銭的な理由などで治療を後回しにしてしまう人が少なくない点が挙げられます。こうした放置が続くと、結果的に欠損歯(抜歯が必要となる歯)が増え、治療の長期化や大幅な費用負担につながり、また生活の質(QOL)の低下を招く可能性が高くなります。
さらに近年、訪問歯科診療に携わる歯科医師のコラムでも指摘されているように、「若いころどれだけ歯や口の健康を守っていたか」が晩年の暮らしを決定づけるともいえるのです。
ここでは、こうした歯科医院が直面する問題と、訪問歯科の現場から見える「早期の口腔ケア」の重要性についてお伝えいたします。
■歯を磨いてもらうこと――歯科医院の共通した悩み
大前提として、歯科医師や歯科衛生士がどれだけ精密な治療を行っても、患者さんご自身の日常的なセルフケアが不十分だと、治療効果は限定的になってしまいます。歯を健康に保つためには、毎日の歯磨きやデンタルフロス・歯間ブラシなどを使ったケアが欠かせません。これは歯科医院にとっては「何よりも基本」であり、「もっとも重要なポイント」でもあります。
しかし、実際には忙しさや面倒くささ、あるいは正しい磨き方がわからないといった理由で、きちんと歯を磨けていない方が意外と多いのが実状です。医院では定期検診やクリーニングの際にブラッシング指導を行いますが、「自分流」の磨き方が長く続いていると修正が難しく、磨き残しがあちこちに見つかります。そうした磨き残しが虫歯や歯周病の原因となり、放置すればやがて欠損を引き起こしかねません。
お金と時間をかければ難しい症例でも治療することができます。しかしそれ以上に大変なのが「歯を磨いてもらうこと」や「早めに治療を受けてもらうこと」だと感じています。
■治療を先延ばしにすることで起こる問題
「痛みが出ても忙しくて行けない」「歯科治療は怖いから、つい先送りしてしまう」「今は金銭的に余裕がない」といった理由で、症状があっても受診を先延ばしにする患者さんも少なくありません。こうした行動は、短期的には時間とお金を節約しているように見えるかもしれませんが、長い目で見れば大きなリスクとなります。治療が遅れるほど症状は進行し、取り返しのつかない状態に陥る場合もあるからです。
たとえば小さな虫歯であれば、短期間で簡単な治療で済むことが多いですが、それを放置して大きく進行させてしまうと、神経を取る治療や抜歯が必要となるかもしれません。さらに、歯が欠損してしまえば、ブリッジや入れ歯、インプラントなど多額の費用や長期的な治療期間が必要となり、生活の質もその間大きく下がってしまいます。私たちが困ることのうちにこういった難症例になってしまった患者さんからの「噛めないと困る」「歯が無いと人と会えない」「イベントまでに治療を終わらせて欲しい」といった「どうして早く来てくれなかったんですか?」と言いたくなってしまうようなご要望があります。一休さんのとんちのようですが、治すにはまず来てほしいのが実情です。
■訪問歯科の現場が教えてくれること――歯科治療は“貯金”
訪問歯科を行っている歯科医師のコラムでは、「高齢者の歯科治療はまるで貯金のようなものだ」という、たいへん印象的な言葉が紹介されていました。若いうちにどれだけ丁寧な口腔ケアを行い、必要な治療を適切な時期に受けておくか――この「健康ポイント」の積み重ねが、高齢になったときの生活の質を大きく左右するのです。
実際、高齢になると、要介護や病気の罹患などにより自力で歯科医院に行くことが難しくなる人が多いのが現実です。足腰の不安や、通院する気力が湧かない状態になってしまえば、歯医者へ行こうにも行けず、当然治療も受けられません。その結果、口の中のトラブルが進行していても何もできず、食事や会話の質が下がるなど、残りの人生を大きく損ねてしまうこともあります。
さらに訪問歯科には大きな制約があります。往診用の機材や器具では、歯科医院の診療室ほどの設備を整えることは不可能です。抜歯や根管治療など高度な処置をするのが難しいケースも多く、「根本的な治療」ができない場面が多々あります。せいぜい応急処置や痛みをやわらげるための対応にとどまってしまうことが多いのです。
こうした現状を見ると、「治療が必要になってから医院に通う」という従来型の姿勢では、いずれ通えなくなる年代がやってきたとき、十分な処置を受けるのが極めて難しくなってしまうのです。若いころからコツコツと口の健康ポイントを“貯金”しておく意識が、将来への最大の備えになるといえるでしょう。
■放置の結果が生む負の連鎖
「日々の歯磨きを怠り、歯科治療を放置する」→「病変が進行し、抜歯など大規模な治療が必要になる」→「治療費の増大と長期の通院でQOLが低下」――という流れは、よくある負の連鎖です。
さらに、訪問歯科が必要な状況になると、そもそも歯医者に行くこと自体ができませんから、残された処置の選択肢は限りなく狭まります。複数の欠損がある状態を治そうとしても、高度な補綴(ほてつ)治療やインプラントなどは、訪問先では十分に行えません。結果として、「歯がなくて食べられない」「話しづらくなった」という問題を抱えたまま、日々を過ごさざるをえないのです。
こうした状況を避けるには、若いころからの定期的なケアが鍵を握ります。少しの違和感でも受診し、悪いところは早めに治す。しっかり歯を磨き、歯周病や虫歯を防ぐ。歯科医療を“先取り”することで、晩年にも健康的な歯を保ち、訪問歯科サービスに頼らずに済む状況、あるいは訪問歯科でも比較的軽微なメンテナンスで済むような口腔環境を保てる可能性が高まります。
■歯科医院だからこそできる「専門的な治療」
歯科医院で行われる治療は、精密機器を用いたレントゲン撮影やCTスキャン、あるいは先進的な機器を使った修復治療など、多岐にわたります。これらは訪問歯科の場では大半が実現できません。医院の診療台(ユニット)には吸引装置や水の供給装置、高出力の切削機器などさまざまな装備があり、適切な滅菌環境下で治療を行うことができます。
逆にいうと、こうした環境がなければ歯科医師は本来の実力を発揮できません。根本的な治療のためには医院での適切な処置が不可欠です。
だからこそ、「要介護になってから訪問歯科で何とかしてもらおう」と考えるのではなく、可能なうちに歯科医院へ通い、早めのケアや治療を行っておくことが大切なのです。
■治療と予防を両立させる意識を持つ
歯科医院での治療はもちろん重要ですが、それだけでは不十分です。治療が終わった後に再発しないよう予防管理を続けることこそ、長い目で見たときの費用や通院回数の軽減に大きく寄与します。歯科医院では定期検診やクリーニングの受診をおすすめしており、その場でホームケアのアドバイスも受けられます。
「歯の治療=何か問題が起きたときにだけやるもの」という意識ではなく、「治療がひと段落しても、予防のために通う場所」として歯科医院を活用していただきたいのです。実際、海外では定期的なケアとクリーニングを当たり前に続けていることで、80歳でも20本以上の歯が残っているような高齢者が多くいます。日本もこうした意識改革が進めば、将来的に訪問歯科に頼らなくても自分の歯で噛める高齢者が増えていくことでしょう。
■若いうちからのケアが晩年のQOLを左右する
若いころからの歯磨き習慣と早期治療の積み重ねは、高齢期に大きな恩恵として返ってきます。歯科治療は“貯金”のようなもの――この視点から言えることは、「将来の口の健康への投資」として、いま現在の治療や予防に積極的に取り組んでいただきたいということです。
確かに、歯科医院へ通うには時間や費用がかかり、痛みや不快感への不安もつきまといます。しかし放置すれば、もっと大きな痛み・費用・時間がかかるだけでなく、訪問歯科でさえ根本的な治療ができなくなるかもしれません。足腰に不安がある、治療を受ける気持ちが起きない――といった状態では、そもそも歯科医院へ通院する選択肢すら失われてしまうのです。
歯科医師や歯科衛生士の専門知識と技術は、患者さんの歯を守るために存在します。ただし、その力を最大限に活かすには、患者さんご自身の意識と行動が不可欠です。日々の歯磨きと早期治療への意欲があれば、歯科医院での治療効果は飛躍的に向上し、その先に訪れる高齢期においても、元気に食べ、笑い、話すことができるはずです。
「歯の健康」は人生を豊かにする基礎です。どうか若いうちから口の中をいたわり、必要な治療には積極的に向き合ってください。それが、将来の自分への最良の贈り物となるでしょう。
■当院では予防歯科を行っています
当院は予防歯科を導入して数年になりますが、簡単にご説明すると「悪くなってから治療」だけする方ではなく「悪くなる前に予防する」「悪くなったら早期に治療する」ことを目的としている方を対象にした歯科医院です。何がちがうの?と思った方もいるかもしれません。
悪くなってから治療だけする方は歯を失うリスクが非常に高く、さらに言えばその後の治療も積極的に行うことが少ないと感じています。悲しいことですが、「歯に対する興味が無い」のではないでしょうか。私達は治療の際に予防歯科の大切さを伝えていますが、歯に対する興味の無かった方が興味を持っていただけるようになることも多いです。それでも治療に興味を持てない方は残念ながら定期検診のご予約をご自身でお取りすることもほぼなく、急に歯が痛くなってご連絡いただいても近い日程のご予約をお取りすることが出来ずそのままご連絡が無くなってしまいます。色々な歯科医院を渡り歩いているケースも多く見受けられました。歯に興味のない方の治療は歯科医師としてとてもむなしいものです。砂浜に城を立てるようなもので、満ち潮になれば砂にさらわれてしまいます。
予防歯科では定期的な検診と早期治療を中心に行っています。突然歯が痛くなることはゼロではありませんが、計画的に治療を行うことができるので患者さんにとっても治療をうけやすいのではと思います。できるだけ痛みが出ないようにするには早期発見が大切です。痛くなってから来るより治療を楽にうけることができます。
そういった理由から私たちは基本的に全ての患者さんには定期検診をお願いしています。どうしても検診は受けたくない、痛くなったり歯が無くなってからじゃないと治療を受けたくない、という方にこそ予防歯科を受けていただきたいのですが、どうしても予防歯科に興味がない方は予防歯科を行っている歯科医院は相性が良くないかもしれません。予防を行わずに治療中心で診療している歯科医院も多くありますし、これはどちらが正しいという話でもありませんのでご自身にあった歯科医院で治療を受けるのが良いと思います。
予防について気になる方は是非一度ご連絡ください。一緒に歯を残せるように頑張っていきましょう。